胸が痛いときに注意すべきポイント
当院は循環器を専門に診療していますので、胸の痛みについてご相談を受けることも多いです。胸の痛みには狭心症などの心疾患の可能性もありますので、放置してはいけない場合があります。ここでは胸が痛いときに注意すべきポイントについて簡単にまとめてみました。
色々な胸の痛み
一言で「胸痛」といっても、いろいろな痛みがあります。チクチクする痛み、ズキンと刺すような痛み、ズーンと圧迫されるような痛み、ぎゅっと締め付けられる痛み、等々痛みの種類は様々です。また瞬間的な痛みもあれば、数分から数時間、場合によっては数日や数カ月続く痛みもあります。
胸の痛みはどこから来る?
胸が痛いと心臓の病気が心配になるかもしれませんが、胸痛には様々な原因があります。心臓、肺、食道、胃、大動脈など内臓からの痛みもあれば、皮膚、骨、神経など胸壁からの痛みもあります。ご本人が心臓の痛みだと思っていても、診察や検査で心臓以外に原因が見つかることもあります。胸痛は循環器や呼吸器、消化器、整形外科など様々な診療科が関係していますので、胸が痛い時にどこを受診すれば良いか分からない場合もあると思います。
胸の症状から原因がわかる?
ただ、胸の痛み方から原因を「推測」できる場合もあります。指で場所を示せるような限局性の痛みや圧痛のある痛みは、体の表面に近い胸壁の痛みの可能性があります。心臓や食道が原因の場合は、何となくこの辺が痛いと感じることが多いです。瞬間的に刺すような痛みは神経痛の可能性があります。数時間または数日前から続いている痛みは急性の疾患が疑われますが、何ヶ月も続いている場合は、それ以外の疾患も考える必要が有ります。何十年も前から同じように繰り返している痛みは、進行癌などの悪性疾患の可能性は少ないと思われます。
胸の症状以外にも手がかりがある?
胸痛の原因を見分けるためには、痛みに注目しているだけでは不十分です。何をしている時に痛みが生じるのか、症状が出るタイミングも大事な情報です。坂道を上る時など運動中に胸の圧迫感が生じる場合は狭心症が疑われます。狭心症であれば安静にすることで改善し、再び運動すると痛みが再発します。食事中や食後の痛みは胃や食道など消化器疾患の可能性があります。体をひねったり、起き上がる時に悪化する痛みは整形外科的な痛みかもしれません。深く息を吸うと痛みが強くなるなら胸膜や心膜の炎症の可能性もあります。
年齢や性別も、痛みの原因を推測する上で重要です。閉経前の若年〜中年女性が狭心症を発症するリスクは少ないです。気胸は若いやせ型の男性に多い傾向が有ります。高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病のある方が急に胸が苦しくなった場合は狭心症や心筋梗塞の可能性を考える必要があります。日頃の生活や疲労、ストレスなども胸痛の原因を推定する手がかりになります。
胸の症状だけでは「診断」できない
ただし、症状だけで病気を推定するのは困難なことも多いです。例えば、運動しても症状が乏しい無痛性の狭心症の方もいます。ご高齢の方の場合は、病気の症状がはっきりせず、何となく元気がない、調子が悪いと感じる事もあります。病気は必ずしも教科書通りの症状が出るとは限りませんので、本やネットの情報だけで判断するのではなく、まずは身近な医療機関に受診していただくことをお勧めします。
病院に行ったら何をするの?
病院で胸痛の原因を調べる場合は、このような情報を参考にして「最も疑わしい病気」と「最も危険な病気」を念頭におきながら、色々な検査を組み合わせていくことになります。一般的には、まず心電図や胸部レントゲン、血液検査などが行われます。心エコーや胸部CT、時には心臓CTやカテーテル検査、胃カメラなどが必要な場合もあります。ただ、あまり検査の事は心配せず、まずはお気軽にご相談いただく方が良いと思います。
救急車を呼ぶタイミングは?
最後に大事なお話しです。胸痛の原因の中には急性心筋梗塞や大動脈解離など緊急性のある病気が含まれています。過去に経験のない痛みであれば、ご自分だけで判断せず、できるだけ早めに病院に受診することをお勧めします。特に「これまで経験のないほどの強い胸痛」「突然、胸や背中が引き裂かれるような痛み」「冷汗が出て動けないほどの痛み」が出現した場合は、すぐに救急車を呼んで病院に受診してください。本当に急を要する病状の場合、速さに勝る治療法はありません。決して、翌日の朝まで自宅で我慢しないようにしてください。
まとめ
胸の痛みには原因を推測する様々な情報が含まれていますが、症状だけでは判断できない場合も多いので、まずは病院でご相談ください。冷や汗が出るような激しい痛みがあれば、迷わず救急外来を受診してください。